夫婦で相談に来たお客さんがいました。夫婦それぞれから相談があったので、僕は2人の声を聞いてパソコンでに文字起こしをしていました。相談の内容を伝えるのはよくできたと自分を自分で褒めてやりたいです。
でも、どうしてもうまく文字に起こせなかったなあという部分がありました。
「あれ」や「これ」
専門用語を文字にするのも、もちろん難しいのですが、また別の意味で難しい言葉があります。
相談者間で話している、ちょっとした会話。特に「あれ」や「これ」や「それ」だけで話す身内ならではのコミュニケーションです。
「あれ(さっき話題になっていた資料)どこやったん?」
「それはあのとき確か。あれ、どうやったかな?」
「これ(税務に関する制度)は知ってるんちゃう?」
「昔やった気もするけど、あれはちょっと違ったような気するなあ」
会計士が少し席を外した瞬間や、資料に目を通している間になされる、夫婦間の小話。
きっと耳の聞こえる会計士なら、すぐその会話に入らなくとも、後々その話題を持ってきたり、お客さんの疑問や不安に答えられるように調べたりできるでしょう。ちょっとした会話や気遣いですが、その積み重ねがお客さんとの信頼関係につながると思います。
悩みは尽きないけれど
通訳者として、できる限り音の情報を目に見える形にしています。でも、身内同士の省略されたやり取りを全部言葉にしつつ、微妙なニュアンスまで伝えるのは本当に難しい。
もしかしたら、この耳の悪い会計士には聞こえていないと思ってお客さんは呟いたかもしれない。僕がいなければ、耳の悪い会計士の中で「この夫婦間の会話」は全く存在しないものだったのかな。
面談で考えることはいくらでもあるけど、悩む間もなく次の言葉が流れてきます。そこで時間を使って、大切な情報が漏れてしまったら元も子もありません。
たった一つの呟きにも悩みつつ、今日も手を動かし続けています。
コメント